この度「精霊の守り人」の文庫化が決定いたしました。この文章は作者の上橋菜穂子さんからこの件に関して頂いたものです。転載はご遠慮ください。(2007年3月1日 守り人の洞窟・白井弓子) |
『精霊の守り人』文庫化について 1.文庫化について 拙著『精霊の守り人』が新潮文庫となって刊行されることになりましたので、お知らせ致します。 私はずっと、「子どもにも、大人にも、心から面白い物語」を書きたいと思いつづけてきましたので、新潮社のような、これまで児童書(特に、ハイ・ファンタジー)の棚になど目を向けることもなかったようなタイプの大人の読者層が多い出版社から文庫化していただき、そういう層の人たちが、本書を手に取るきっかけになってくれたらと思い、新潮文庫からのお誘いを受けることに致しました。 アニメ化の帯を巻いて出ますから、アニメ化がきっかけだと思われるかもしれませんが、そうではありません。 『精霊の守り人』を文庫に、というお話は、アニメ化の話がもたらされるより、ずっと前――何年も前からありました。ただ、その頃はシリーズの途中で、どのような形で完結するか、私自身まったくわかっていなかったので、「シリーズの完結が見えたら考えますので、待ってください」とお願いして、待ってもらっていたのです。 『天と地の守り人』三部作を世に出せることが明確になったので、昨年、文庫化作業にゴー・サインを出したというわけです。 2.文庫版と軽装版の違いについて 新潮文庫版『精霊の守り人』は、これまで「守り人シリーズ」を知らず、興味も持たなかったような大人の読者に読んでいただくことを願って作った本ですから、挿画も入れず、軽装版よりも、さらに漢字表記を増やしています。 表紙も、二木さんの絵ではありません。茜さんたちがよく作っておられる切り絵の印象が心に残っていたせいか、ぜひ、切り絵風の表紙にしてみてください、と、お願いして、アジアの匂いのする、やや平面的な装丁にしてもらっています。新潮文庫の読者には、それでも、異質に見えるかもしれませんが、躍動感はありながら、落ち着いた表紙になっていると思います。 一方、軽装版は、書籍版の『精霊の守り人』を、どこかで見かけたり、図書館で借りて読んだりしていた人たちで、あの本に好感をもち、手に入れたいけれど、でも重過ぎるし、高いなぁと思っておられた人たち。あるいは、平仮名が多すぎて、読みにくいなぁと思っていたヤング・アダルトや大人の読者たちのために、漢字表記を増やし、軽装・安価にしながらも、挿画も入れて、書籍版の美しさを出来る限り残す作り方をした……そういう本です。 つまり、すでに、『精霊の守り人』のことを知っている、あるいは、気にかけていた人たち――児童書の棚に足を運ぶことを苦にせず、挿画があるファンタジーでも手にとってみようと思う、そういう読者――に向けた本だと、私は考えています。 また、学校の図書館などで、書籍版を読んで、好きになってくださったけれど、自分のお小遣いでは手がでなかった……そういう子どもたちにも、二木さんの美しい絵が入った偕成社の軽装版を届けたい、という思いもありました。 軽装版を後に出すというような配慮ができなかったのか、と、問いかけがありましたが(消費者の心理としては、そう言いたくなる気もちはよくわかりますが)、それはできないのです。版元が違いますから。出版時期というのは、各社がそれぞれの判断で決めることです。 3.今後について これから、軽装版と文庫版が、どういう風に出版されていくか、気になる方もおられると思いますので、現時点でリリースしてよい部分のみ書いておきますね。 まず、軽装版は、シリーズ全部が順次、出版されていきます。もちろん、最終巻の『天と地の守り人』が出るのは、随分先になると思いますが。 新潮文庫版は、この先、どういう風に出版していくか未定の部分が多いです。出版していくリズムも一様ではないと思います。 ただ、現時点でひとつわかっているのは、『天と地の守り人』が、いわゆる「文庫化されるのが許される常識期間」である三年後に出ることはないだろうということです。たとえ文庫化されるとしても、そんなに短い期間で出ることはありませんので、それだけは、予めお伝えしておきます。 『精霊の守り人』は、幸運な本です。多くの方々に愛されて、様々な形へと姿を変え、多様な人たちに巡り会える可能性を与えられました。 去年出版できるはずだったシリーズの完結編を、読者の手元に届けることができた今年、アニメ化、マンガ化、文庫化するという巡り合わせになったことが、なんだか不思議な気がします。 この物語を愛し、ここまで一緒に見守ってくださった読者の皆さん、この物語の未来を、これからも見守っていただければ幸せです。 上橋菜穂子 |
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